多世界解釈
「
シュレディンガーの猫」の思考実験の問題について、1957年、当時、プリンストン大学の大学院生にすぎなかった
ヒュー・エヴァレットから、とてつもなく画期的なアイデアが提示される。
そのアイデアはとてもシンプルなものだった。
「電子も猫も、あらゆるミクロの物質は、
可能性のまんまで、重なり合って多重に存在している、ってのが、量子力学の結論なんでしょ?でもさぁ、『猫を観測している人間』だって、
同じミクロの物質で作られているんだよね?だったら、なんで、
その量子力学の結論を『人間』にも適用してあげないのさ」
それを聞いて、誰もが、はっとした。
それは、
当時のどんな天才科学者たちも、みな見落としていたことだった。
よくよく考えたら、「
猫を観測している人間」だって、電子や猫と同じ物質で出来ているんだから、
「人間」にも量子力学を適用しなければ、公平ではないだろう。
「
なぜ、誰も気がつかなかったのだろうか!」と思うぐらい、あまりに妥当な発想である。
さてさて。
では、実際に「
人間(観測者)」にも、量子力学を適用したら、結局どうなるだろうか?
人間も、猫と同じように、「
複数の状態の重ね合わせ」として存在していることになる。
つまり、猫は、「
生きている状態」と「
死んでいる状態」が重なり合って、
同時に存在しているのだから……、それをそのまま「人間」に適用してやれば、人間だって、「
生きている猫を見ている状態」と「
死んでいる猫を見ている状態」として、
同時に存在していることになるのだ。
たとえば、「
シュレディンガーの猫」の実験を実際にやって、ボクが「
生きている猫を見た」とする。
そこで、ボクはこんな疑問を持つ。
「量子力学の数式のうえで、猫という『
ミクロの物質のカタマリ』は、『
生きている状態』と『
死んでいる状態』の2つの状態が、同時に存在しているんだよね?で、猫という『
ミクロの物質のカタマリ』に、重力が働こうが、電磁気力が働こうが、どんな『
力の作用』が起きても、『
どちらかの状態だけになること』はないんだよね?
でも、
現実に、ボクは『
生きている状態の猫』を見ているよ!じゃあ、いったい、『
死んでいる状態の猫』は
どこにいったのさ!?」
これについて、エヴァレットの解釈を用いれば、こう答えることになる。
「いやいや、『
生きている猫』も『
死んでいる猫』も、そこにちゃんと存在しているんだ。
それどころか!
この実験の観察者である『キミ』も、『
生きている猫を見ている状態』と『
死んでいる猫を見ている状態』として、同時に重なって存在しているんだ。だって、『キミ』も、猫と同じ物質から作られているんだからね」
「ちょっと待ってくれよ!それは、つまり、『
もうひとりのボク』がいるってことなのかい?そんなバカな話があるか!」
「でも、『
右のスリットを通った原子』と『
左のスリットを通った原子』が、同時に存在しているんだったら、なにもおかしい話じゃないだろ?同じように、『
生きている猫をみているキミ』も、『
死んでいる猫をみているキミ』も、同時に存在しているんだよ!」
「そんなことって……!
それじゃあ、それじゃあ、そんなのまるで……、
パラレルワールド(多世界)じゃないかぁ〜〜!!」
というわけで、これを
多世界解釈と呼ぶ。
ちょっと、こんなふうに考えてみて欲しい。
カチコチの粒子だと思われてきた「
1個の原子」が、実は、そんなものではなく、「
ここにあるかも、あっちにあるかも」という可能性が重なり合った「
波のような存在」であるという
コペンハーゲン解釈が正しいのなら、
人間も含めて、すべての物質(宇宙)も「
あらゆる可能性が重なり合った波のような存在」と考えることができる。
つまり、宇宙とは、波のように漂う「
巨大な可能性の塊」であるといえる。
そうすると、宇宙における、あらゆる可能性は、
今ここに、重なり合って存在していることになる。
だから、可能性としては、
「
生きている猫を観測する私」も存在しているし、
「
死んでいる猫を観測する私」も存在しているし、
「
林原めぐみと結婚している私」だって存在しているといえるのだ。
まとめよう。
・「
電子が多重に存在するなら、猫だって多重に存在するはずだ!」という「シュレディンガーの猫」の思考実験について、「
だったら、それを見ている人間だって、多重に存在するはずだ!」と、誰もが見落としていたことに、ひとりの学生が見事に気付いた。
・「
見ている人間が、多重に存在する」ということは、
『私がいる世界』が多重に存在しているということであり、それはつまり、
『多世界』が存在しているという結論になる。
「
そうか!そうだったのか!
おれたちは……、
とんでもない考え違いをしていたのかもしれない」
「
ど、どうしたんだ!エヴァレット!」
「
やはり予言は、ハズレていなかったんだ!」